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横浜地方裁判所 平成4年(ワ)2431号 判決

原告

木庭孝

ほか一名

被告

野中卓也こと野中卓弥

ほか一名

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、原告らに対し、連帯して一四三一万七二一五円及びうち一三四四万七二一五円に対する平成五年四月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  当事者

(一) 原告らは、別紙物件目録記載の建物(以下「本件建物」という。)を持分二分の一宛で共有し、平成二年四月二五日から右建物の一階で原告木庭昌子名義で美容室「ウープス」(以下「本件美容室」という。)を経営している。

(二) 被告野中浩(以下「被告浩」という。)は、被告野中卓弥(以下「被告卓弥」という。)の父親である。

2  事故の発生(以下「本件事故」という。)

被告卓弥は、平成四年五月九日午後九時一五分ころ、普通乗用自動車(横浜七九り九〇九七)を運転し、本件建物付近を二ツ橋交差点から戸塚方面に向けて走行中、カーブを曲がり切れず、同車はセンターラインを超えて、本件建物に衝突した。

右衝突により、本件美容室部分は全壊し、本件建物二階の住居部分は同階への通し柱が損壊したため床及び天井が傾き、応急処置を施した後も本件建物全体が使用できない状態である。

3  責任原因

(一) 被告卓弥の責任

本件事故当時は夜間で視界が悪く、本件現場付近は見通しの悪い左カーブの下り坂であり、かつ、路面が雨の後で滑りやすい状況であつたのであるから、自動車運転者としては、速度を緩め、左右の状況を充分注視しながら運転する注意義務があつたにもかかわらず、被告卓弥は、これを怠り、左右の状況を注視しないで、右の下り坂カーブを時速九〇キロメートル近い速度で進行させた過失により、本件事故を起こしたものであるから、原告らの被つた後記損害を賠償する責任がある。

(二) 被告浩の責任

(1) 被告浩は、東京の銀座で税理士を開業している者であるが、平成四年五月一〇日、その職業を示す名刺を原告らに公付し、息子の被告卓弥が原告らに対して与えた損害は責任をもつて弁償する旨を約束し、本件事故に基づく損害賠償債務について、重畳的債務引受をする旨の意思表示をした。

(2) 被告浩は、平成四年五月一七日、原告ら宅を訪れ、被告卓弥の父親・親権者として、原告孝に対し、「私は息子らにせびられて本件の乗用車を息子らに買い与え、私ら家族も息子ら運転の右乗用車に乗せてもらつていた。しかし、私は今まで息子らの運転による何回かにわたる接触事故で大変苦労した。とくに、被告卓弥には苦労ばかりかけられている。このような次第で、被告卓弥の責任については、私が借金をし、最悪の場合は家を売つてでも支払う。」旨述べて、本件事故に基づく損害賠償債務について、重畳的債務引受をする旨の意志表示をした。

(3) 被告浩は、前記自動車の所有名義人であり、被告卓弥ら息子らのために運行供用者として右自動車を提供し、さらに、右(2)のとおり、これまで度々右自動車による接触事故を息子達に起こされている。

したがつて、被告浩は、自賠法三条の類推適用並びに民法七〇九条に基づき、本件事故に基づく損害賠償責任を負うべきである。

4  損害

(一) 本件建物修理代 二〇〇九万六一三四円

(二) 本件美容室の什器備品代 二七八万五〇〇〇円

本件美容室の什器備品損壊による損害は、二七八万五〇〇〇円である。

(三) 営業損害 八九二万七八七五円

本件美容室の営業不能による得べかりし利益の損害は、少なくとも本件事故の翌日である平成四年五月一〇日から平成五年四月一〇日まで一か月当たり八一万一六二五円、合計八九二万七八七五円である。

(四) 従業員の給料 四五一万円

本件美容室の従業員三名の平成四年五月一〇日から平成五年四月一〇日までの給料は、一か月当たり四一万円、合計四五一万円である。

(五) 慰謝料 三〇〇万円

原告らは、平成二年四月二五日本件美容室を開店した後、競争の激しい業界の中でようやく顧客を獲得したが、本件事故により顧客が他に流れてしまうとともに、仕事を失つて収入の道を閉ざされるなど安定した生活環境を破壊され、息子らの生活や原告らの老後の生活設計までも台無しにされ、さらに、本件建物を損壊された時の突然の激発音と恐怖感は今でも原告らの頭に甦り体が震えてくるほどである。これらにより受けた精神的苦痛を慰謝するには、三〇〇万円が相当である。

(六) 弁護士費用 一七四万円

原告らは、やむなく本件訴訟の提起を原告訴訟代理人に委任し、弁護士費用について、着手金として八七万円を支払い、成功報酬として本件訴訟終了後八七万円を支払うことを約した。

(七) 損害の填補 二六七四万一七九四円

原告らは、被告らから七〇〇万円、訴外日産火災海上保険会社から損害保険金一九七四万一七九四円、合計二六七四万一七九四円の支払を受けた。

(八) 既払額控除後の損害合計額 一四三一万七二一五円

以上(一)ないし(六)の損害の合計四一〇五万九〇〇九円から(七)の既払額二六七四万一七九四円を控除すると一四三一万七二一五円となる。

4  よつて、原告らは、本件事故に基づく損害賠償として、被告ら各自に対し、連帯して一四三一万七二一五円及びうち一三四四万七二一五円に対する本件事故の日の後である平成五年四月一一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅滞損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否・主張

1  請求原因1(一)は、原告らが本件建物を持分二分の一宛で共有していること及び右建物で本件美容室を経営していることは認め、その余は知らない。

同(二)は認める。

2  請求原因2は、被告卓弥が平成四年五月九日午後九時一五分ころ普通乗用自動車(横浜七九り九〇九七)を運転し、本件建物付近を二ツ橋交差点から戸塚方面に向けて走行中、カーブを曲がり切れず、同車はセンターラインを超えて本件建物に衝突したこと及び右衝突により本件美容室が損壊したことは認め、全壊したことは否認し、その余は知らない。

3  請求原因3(一)は、本件事故当時は夜間で視界が悪く本件現場付近は見通しの悪い左カーブの下り坂であり、かつ、路面が雨の後で滑りやすい状況であつたこと及びそのために被告卓弥が本件事故を起こしたことは認め、被告卓弥が左右の状況を注視することを怠り、右の下り坂カーブを時速九〇キロメートル近い速度で進行したことは否認する。

同(二)(1)は、被告浩が東京の銀座で税理士を開業していること及び平成四年五月一〇日その職業を示す名刺を原告らに交付したことは認め、その余は否認する。

同(二)(2)は否認し、同(3)は否認ないし争う。

被告浩は、原告らに対し、被告卓弥の起こした本件事故について父親としての道義的責任を感じたため、誠意をもつて対応する旨を述べて謝罪したにとどまり、重畳的債務引受をする旨の意思表示はしていない。

4(一)  請求原因4(一)は否認する。

原告らの請求額は、根拠のない過大なものであり、以下のとおり、本件建物損壊についての損害額は、一三六万二六八一円を超えないというべきである。

すなわち、原告らは、旧建物部分に代えて新築建物を取得する結果、原状回復以上の利益を取得することになるので、新築費用から、損益相殺として、旧建物について経過した年数の耐用年数に対する割合に相当する額を控除すべきである。平成四年の木造モルタル造建物新築についての東京近辺における一平方メートルあたりの単価は約一三万六二〇〇円と考えられ、右単価に本件美容室部分の面積二〇・〇一平方メートルを乗じると二七二万五三六二円となり、さらに損益相殺(耐用年数二二年・本件事故に至るまでの経過年数一一年)を考慮すると一三六万二六八一円となる。

さらに、内装についての損害額は、三〇万四〇〇〇円を超えないというべきである。

(二)  同4(二)は否認する。

原告らの請求額は、根拠のない過大なものであり、什器備品、エアコン及び材料等消耗品についての損害額は、本件美容室に関する平成四年分所得税青色申告決算書を基にして、減価償却を考慮して算出すると、一五八万二八〇〇円を超えない。

(三)  同4(三)は否認する。

原告らは、本件事故後、本件美容室の営業を再開する意思を有していないといわざるを得ないので、そもそも営業損害について請求する資格はないというべきである。仮に、認められるとしても、せいぜい得べかりし営業純利益の一か月分相当額であり、その額は一四万一四九四円を超えない。

(四)  同4(四)は否認する。

原告らが本件美容室の従業員三名に対し、平成四年五月一〇日以降、給料を支払う必要性は認められない。

(五)  同4(五)は否認する。

(六)  同4(六)は知らない。

(七)  同4(七)は認める。

(八)  同4(八)は否認する。本件事故による総損害額は、六一二万六九七五円を超えるものではないから、原告らが被つた損害は、被告らが既に支払つた七〇〇万円をもつて充分に填補されている。

第三証拠

記録中の書証目録・承認等目録のとおりである。

理由

一  請求原因1(当事者)について

(一)の事実は、原告らが本件建物を持分二分の一宛で共有し、同建物で本件美容室を経営していることは当事者間に争いがなく、その余の点は、原告木庭昌子及び同木庭孝各本人尋問の結果により成立を認める甲第二九号証、成立に争いのない乙第六号証により認められる。(二)の事実は当事者間に争いがない。

二  請求原因2(事故の発生)について

被告卓弥が、平成四年五月九日午後九時一五分ころ、普通乗用自動車(横浜七九り九〇九七)を運転し、本件建物付近を二ツ橋交差点から戸塚方面に向けて走行中、カーブを曲がり切れず、同車がセンターラインを超えて本件建物に衝突し、その結果、本件美容室が損壊したことは、当事者間に争いがない。そして、原告木庭昌子本人尋問の結果により成立を認める甲第二六号証の一・五及び第二七号証の一ないし八、建物登記簿謄本部分は成立に争いがなく、その余の部分は証人川崎朝海の証言により成立を認める甲第三〇号証、本件建物を撮影した写真であることに争いのない甲第一三号証の一の一ないし一の一三(原告木庭昌子本人尋問の結果により木庭龍夫が平成四年五月九日撮影したものと認める。)、第一四号証の一の一ないし一の一四(原告木庭昌子本人尋問の結果により鈴木宏が平成四年七月二二日撮影したものと認める。)、第二六号証の二の一ないし二の一〇(弁論の全趣旨により木庭龍夫が平成四年五月一一日撮影したものと求める。)、同号証の四の一ないし四の二二(弁論の全趣旨により原告木庭孝が平成四年一二月三日撮影したものと認める。)、第二七号証の一一ないし二七(弁論の全趣旨により原告木庭孝が平成四年一二月二七日撮影したものと認める。)、本件建物を撮影したものであることは当事者間に争いがなく、弁論の全趣旨によれば、原告木庭孝が平成四年一二月二七日撮影したものと認められる甲第二七号証の九・一〇(なお、説明書部分については原告木庭昌子本人尋問の結果により成立を認める。)、証人川崎朝海及び同筧久の各証言並びに原告木庭昌子本人尋問の結果によれば、本件事故により、本件建物は、通し柱、梁等建物の中枢部分が破損したため、天井、内外の壁、床等に歪みが生じ、応急措置を施した後も、全体が使用できない状態であること、ことに本件美容室部分は損壊の程度が著しく、全壊といいうる状態となつたこと、以上の事実が認められる。

三  請求原因3(一)(被告卓弥の責任)について

本件事故当時は夜間で視界が悪く、本件現場付近は見通しの悪い左カーブ下り坂であり、かつ、路面が雨の後で滑りやすい状況であつたことは、当事者間に争いがない。右争いのない事実によれば、本件事故当時本件現場付近を走行する自動車の運転者としては、速度を緩め、左右の状況を充分注視して運転すべき注意義務を負つていたというべきところ、前掲甲第一三号証の一の一ないし一の一三及び弁論の全趣旨によれば、原告ら主張の時速の点はともかく、被告卓弥に右注意義務を怠つた過失があつたことが明らかである。

したがつて、被告卓弥は、原告らの被つた後記損害を賠償する責任がある。

四  請求原因3(二)(被告浩の責任)について

前記のとおり、被告浩は被告卓弥の父親であることは当事者間に争いがなく、原告木庭昌子、同木庭孝及び被告浩の各本人尋問の結果(ただし、後記採用しない部分は除く。)によれば、被告浩は、本件事故の翌日である平成四年五月一〇日、原告ら宅を訪れ、原告らに対し、被告卓弥の起こした本件事故について謝罪したこと、その後、自動車保険の全労災の担当者から、損害額が保険限度額五〇〇万円を超えそうであることなどの説明を受けたこと、そのため、同月一七日、再び原告ら宅を訪れて謝罪するとともに、原告木庭孝に対し、「息子の被告卓弥に車を買い与えた。車は自分名義であるが、殆ど息子が乗つていた。息子は大きい事故ではないが度々事故を起こしていた。息子は社会人になつてまだ日が浅い。保険金で足りない分については、去年国税局を退職した際の退職金が多少残つているし、それでも足りない場合は借金してでも支払う。」旨を述べたこと、税理士としての経験を生かし、美容関係者に問い合わせる等して、自ら損害額を積算するなどしてきたこと、また、右積算額が本件事故の具体的損害額であるとして現に原告らに支払われていること、以上の事実が認められ、、右認定に反する被告浩本人尋問の結果はにわかに採用することができない。

以上によれば、被告浩は、原告木庭孝に対し、被告卓弥の支払能力や損害額が保険限度額を超えた場合の対応策について具体的に述べ、原告らとの示談交渉に積極的に関与してきたものであり、このような経緯からすれば、同被告は、単に、父親としての道義的責任を感じたため、誠意をもつて対応する旨を述べて謝罪したにとどまらず、平成四年五月一七日、原告らに対し、被告卓弥の本件事後に基づく損害賠償債務について、重畳的債務引受をする旨の意思表示をしたものと認めるのが相当である。

したがつて、被告浩は、被告卓弥と連帯して、原告らの被つた後記損害を賠償する責任があるというべきである。

五  請求原因4(損害)について

1  本件建物修理代

(一)  本件建物の修理に要する費用について判断するに、原告木庭昌子本人尋問の結果により成立を認める甲第八号証(有限会社ジーフロムデザインクルー作成の見積書)には工事代金見積額を二〇〇九万六一三四円とする記載がある。一方、成立に争いのない甲第二八号証の一及び乙第五号証によれば、自動車保険の全労災から依頼を受けた建設会社による査定額は一三五九万九八二八万円であり、また、前掲甲第三〇号証(三京建築設計事務所作成の建築物損傷査定書)には工事見積額を一五六五万円とする記載があることが認められる。右各見積額ないし査定額を彼比総合勘案すると、三京建築設計事務所による見積額(甲第三〇号証)が、その内訳等につき最も合理的かつ説得的な根拠を示しているものと考えられ、証人川崎朝海の証言によれば、同見積額については第三者の積算結果との比較検討もなされていると認められることをも合わせるならば、本件建物の修理に要する費用については、前掲甲第三〇号証の見積額を採用し、一五六五万円と認めるのが相当である。

(二)  次に、減価償却を考慮すべきか否かについて判断するに、前掲甲第三〇号証によれば、本件建物の修理には、二階までの通し柱・他の支柱・周囲の各種造作材の取り替えを行う構造材一部取替工事、内装仕上げ工事、外壁及び塗装工事等大幅な修復工事を要することが認められるので、修理を行つた場合には本件建物の耐用年数が延びることとなることは明らかであり、その延長分は原告らの不当利得になる。したがつて、本件建物の修理代の損害額については、その額が比較的大きく、かつ、耐用年数も長期のものであることにも鑑みると、損害の公平な分担の見地から、損益相殺として減価償却を考慮するのが相当である。

しかし、本件建物の修理は、その全部を解体して新築することを要するものではないから、被告らの主張のように、新築費用から旧建物について経過した年数の耐用年数に対する割合に相当する額を控除することは相当ではなく、また、税法上の耐用年数(弁論の全趣旨により成立を認める乙第四号証によれば、木造モルタル造店舗用建物の耐用年数は二二年とされていることが認められる。)を直ちに本件の損害額算定の資料とすることも相当ではない。本件建物の構造・修復工事内容、推測される原告らの今後の使用状況その他本件に現れた諸般の事情を考慮し、当裁判所は、本件建物の耐用年数を三五年(経年減価率は〇・〇二九)、本件の修復工事により延長する耐用年数を五年とすることをもつて相当と認める。

(三)  以上によれば、本件建物修理代についての損害額は、前記修理に要する費用一五六五万円から耐用年数(三五年、経年減価率は〇・〇二九)が延長される分(五年)を損益相殺すると、次の計算のとおり一三三八万七五〇円となる。

一五六五万×(一-〇・〇二九×五)=一三三八万七五〇

2  本件美容室の什器備品代

証人筧久の証言により成立を認める甲第三三号証、同証言及び弁論の全趣旨によれば、本件事故と相当因果関係に立つ本件美容室の什器備品損壊による損害額は二四一万二二六〇円と認めるのが相当である。

3  営業損害

休業期間について判断するに、前記のとおり、本件建物は現在も使用することができない状態であることが認められるが、本件建物の損壊程度、原告らと訴外日産火災海上保険株式会社との交渉経過、原告らと被告浩及び同代理人との交渉経過、その他本件に現れた諸般の事情を考慮すると、本件事故と相当因果関係に立つ本件美容室の休業期間は三か月と認めるのが相当である。

次に、営業損害の算定は、原告ら主張のように売上のみを基礎とすべきではなく、売上から諸経費を控除した純利益分を基礎とすべきものと解されるところ、弁論の全趣旨により成立を認める甲第三二号証の一、同号証の二の一ないし二の一四九、同号証の三の一ないし三の一二四及び同号証の四の一ないし一五四並びに弁論の全趣旨によれば、本件美容室の事故直前である平成四年一月から同年四月まで四か月間の一か月当たり平均売上は八一万一六二五円であることが認められるけれども、同期間中の一か月当たりの諸経費についてはこれを認めさせるべき証拠がなく、原告木庭昌子本人尋問の結果により成立を認める甲第一九号証によれば、平成三年の一か月当たりの諸経費の平均額は六七万一三一円であることが認められるので、本件営業損害の算定に当たつては、右平均売上八一万一六二五円から右諸経費の平均額六七万一三一円を控除した一四万一四九四円をもつて一か月当たり平均純利益と認めるのが相当である。

以上によれば、原告らの営業不能による得べかりし利益の損害は四二万四四八二円となる。

4  従業員の給料

本件事故後、原告らが本件美容室の従業員に対し、給料を支払つた事実を認めるに足りる証拠はなく、支払う必要性を認めるべき証拠もない。したがつて、原告らのこの点の主張は採用することはできない。

5  慰謝料

被告卓弥運転の加害車が夜間原告らが居住する本件建物に衝突し、その結果、修復をしなければ使用不可能な程度に損壊され、原告らの経営する本件美容室の休業を余儀なくされたこと等、前記認定の事実に本件に現れたその他の諸般の事情を総合すると、原告らの精神的苦痛に対する慰謝料は三〇万円をもつて相当と認める。

6  損害の填補及び残損害額

右1ないし5によれば、原告らの総損害額は一六五一万七四九二円となるところ、原告らが、被告らから七〇〇万円、日産火災海上保険株式会社から損害保険金一九七四万一七九四円、合計二六七四万一七九四円の支払を受け、同額を本件事故による損害の填補としていることは自認するところであるから、右総損害額からこれを差し引くのが相当であり、結局、原告らの損害は既にすべて填補されて残損害額はないことになる。

7  弁護士費用

本件事案の性質、審理の経過及び結果等に鑑みると、本件事故と相当因果関係のある損害としての弁護士費用を認めることはできない。

六  結論

以上によると、原告らの本訴請求は、いずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 根本眞 近藤ルミ子 河村俊哉)

物件目録

横浜市瀬谷区二ツ橋町字戸塚道一三四番地二〇・同番地二二

家屋番号壱参四番弐〇

一、木造スレート葺二階建居宅・店舗 壱棟

床面積 壱階 四九・九七平方メートル

弐階 参九・七四平方メートル

以上

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